エクストルーダーE-Steps(送り量)校正:Marlin 100mm測定の決定版ガイド
原因不明のアンダーエクストルージョンや寸法狂いに悩まされるのはもう終わりにしましょう。G-codeコマンドと数学的計算を用いて、正確なステッピングモーターのステップ数(steps/mm)を導き出します。
1. E-Steps(押し出しステップ数)の真の意味と初期値の落とし穴
E-Steps(Extruder Steps per Millimeter)とは、3Dプリンターのファームウェア(Marlin、Klipper、RepRapFirmwareなど)に記憶されている基本定数であり、フィラメントを正確に1ミリメートル送り出すために必要なステッピングモーターのマイクロステップ数を表します。
Creality Ender 3などの入門機は、工場出荷時に「約93 steps/mm」という標準値がプリセットされています。これは、外径約10.8mmの真鍮製ドライブギアを、1.8°ステップ角のモーター(1回転200ステップ)と1/16マイクロステップで駆動した場合の理論値にすぎません。現実には、ギア歯の食い込み深さ、バネの押圧、ギア加工誤差により、1回転で送られる実際の外周長は微妙に異なります。E-Stepsが未校正のままでは、スライサーでのどんな精密な吐出量調整も無意味になってしまいます。
完成したプリント品の見た目の過不足を補正するためにE-Stepsを変更してはいけません。E-Stepsはギアによるフィラメント送りという純粋な物理機構の定数であり、ノズル径や温度、材料の種類とは無関係です。
2. 100mmフィラメント実測校正の手順
校正に必要な器具は、デジタルノギス、細字の油性ペン、そしてG-codeターミナル(OctoPrint、Pronterface、または当サイトのWeb Serialコントローラー)だけです。
正確な測定手順:
1. フィラメントをセット:変形の少ない硬質フィラメント(PLAが最適)を真っ直ぐに伸ばし、エクストルーダーに通します。 2. 120mmの位置に印を付ける:エクストルーダーのフィラメント入口端面にノギスの基準面を当て、120.0mmの位置に正確に印(マーク)を付けます。 3. ホットエンドを加熱(低温保護の解除):Marlinには低温での押し出しを防ぐ保護機能(`prevent_cold_extrude`、通常170℃以上)があります。普段のプリント温度(PLAなら205℃など)に加熱するか、エクストルーダー出口のBowdenチューブを外して抵抗なしの空送り状態にします。 4. G-codeで100mm送り出しを実行: `M83`(相対押し出しモード設定) `G1 E100 F100`(100mm/minの低速で100mm押し出し) 5. 残り長さを計測:モーターが停止したら、入口端面からマークまでの残存距離をノギスで測ります。正確に100mm送られていれば残りはちょうど20.0mmです。もし残りが27.0mmなら、実際には93.0mmしか送られていません(120 - 27)。
E-Steps計算式と具体例
- ✓実際の送り量 (mm) = 120 - マークまでの残存距離
- ✓新E-Steps = 現在のE-Steps × (100 / 実際の送り量 mm)
- ✓計算例: 現在のE-Stepsが93.0で、実送り量が94.2mmだった場合:93.0 × (100 / 94.2) = 98.73 steps/mm。
3. ファームウェアコマンド:確認・反映・EEPROM保存
新しく計算したステップ数をプリンターのEEPROMに保存するには、ターミナルから3つのコマンドを順に送信します:
1. 現在値の確認 (`M503`): `M503` を送信し、出力される設定一覧から `echo: M92 X... Y... Z... E...` の行を探します。`E` の直後にある数値が現在アクティブな値です(例: `E93.00`)。
2. 新しい値を設定 (`M92`): 計算した数値を `M92 E[値]` で入力します(例: `M92 E98.73`)。これで一時メモリが更新されます。
3. EEPROMへ恒久保存 (`M500`): 電源を切ると消えてしまうため、必ず `M500` を送信します。`echo:Settings Stored (EEPROM)` と返ってきたら保存完了です。確認のため `M501`(読込)に続き `M503` を送信して値が保持されているか確認してください。
Ender 3 v2などCrealityの多くの32ビットボード(4.2.2/4.2.7等)は物理的なEEPROMチップを持たず、SDカード内の「EEPROM.DAT」ファイルに設定をエミュレート保存します。M500実行時は必ずSDカードを挿入しておいてください。
4. ボウデン式・ダイレクト式・減速ギア付きエクストルーダーの違い
エクストルーダーの機構やギア比によって、適正なE-Stepsの範囲は大きく異なります:
- 標準シングルギア・ボウデン式(Ender 3、CR-10など):NEMA 17モーター軸に直結された1つのギアでベアリングと挟む構造。通常は93〜105 steps/mm程度。ノズル内圧が高くなると滑りやすい弱点があります。 - 減速ギア付きデュアルドライブ(Bondtech BMG、Titan、Voron Clockwork 2、Orbiter):3:1〜7.5:1程度の減速比を持ち、両側からフィラメントを強固に噛みます。モーターが複数回転して1mmを送るため、BMGクローンなら約415〜425 steps/mm、Orbiter v2なら約690 steps/mmと大幅に高い値になります。 - パンケーキモーター式ダイレクトドライブ:薄型軽量モーターと高減速比ギアを組み合わせ、ボウデンチューブのたわみを解消して高精度なリトラクションを実現します。
主要エクストルーダーの標準目安値(1/16マイクロステップ時)
- ✓Creality標準シングルギア(1.8°モーター):約 93.0 steps/mm
- ✓Creality デュアルギアアップグレード:約 139.0〜145.0 steps/mm
- ✓E3D Titan(3:1減速):約 418.5 steps/mm
- ✓Bondtech BMG / クローン(3:1減速):約 415.0 steps/mm
- ✓Voron Clockwork 2(50:10ギア比):約 450.0 steps/mm
- ✓LDO Orbiter v2.0(7.5:1ギア比):約 690.0 steps/mm
- ✓Micro-Swiss Dual Gear Direct Drive:約 130.0 steps/mm
5. E-Stepsとスライサーの吐出流量(Flow Rate)の明確な棲み分け
初心者によくある間違いが、フィラメントごとの吐出の過不足をE-Stepsで調整しようとすることです。
プロの現場では、この2つを明確に区別して運用します:
- E-Stepsはハードウェア固有の物理定数:ギアの物理的外径と減速機構を表す数値です。モーターやギア本体を交換しない限り、一度合わせれば変更する必要はありません。 - スライサーの吐出流量(Flow Rate / 押し出し倍率):ポリマー固有の物理的性質を補正するパラメーターです。柔軟なTPUはギアに押し潰されて実質径が小さくなり、PLAは潰れず、発泡LW-PLAはノズル内で膨張します。これらはスライサー側のフィラメントプロファイルで個別に調整します。
E-Stepsはチューブを外したフリー状態で最初に一度だけ校正してください。日々のフィラメントごとの微調整は、スライサーのフローテスト(OrcaSlicerのFlow Rate Calibrationなど)で行うのが鉄則です。